フランス北部の街リールにあるナタリー・グラールのアトリエは、様々なオブジェが壁に掛けられた、まるでイメージの宝庫のような空間だ。作家の巣のようなこの明るい部屋では、細長い脚の少女のような姿をした蛙が、豆や種、キノコや鳥、扇や子供の描いた絵と出逢いながらさまよい歩く。
グラールは銅版に筆でさらさらとイメージを描くと、浮遊するようなその奇妙な世界を、はかない羽のような繊細なタッチで彫り込んでいく。見る者を凝視する奇想天外な動物達、傘や蝶や花、静止した小舟の上を滑るような漁師のシルエット、湖の風景、高慢な顔をしたロバ、雄鶏そしてフクロウ…。
今にも崩れ去りそうな震動と浮遊の宇宙、美しさと冒険、それらが消えてなくなる前に彼女は次々と銅版に取り込んでいく。